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​イスラエルに寄せて

 イスラエルと米国が外交交渉中にイランを攻撃し、戦争がはじまって1ヵ月が経とうとしています。情報統制が強く、偽情報も多いため、何が起きているかの感じ方は人によってさまざまかと思います。

 私が今回、強く心を動かされたのは、100歳になるレバノンのおばあさんの存在でした。先祖の代から、イスラエル建国のずっと前から、この土地に住んでいたおばあさん。イスラエル軍の攻撃が激化する中、このおばあさんは避難を拒否し、故郷を離れることをこばんでいるそうです。

 「やつらが来たら、石をぶつけてやるんだ……オリーブやいちじくの木はね、根っこが大地にどんどん広がってゆくんだよ」

 Xでこのおばあさんの動画を見たとき、私は80年前の沖縄戦で、どんなに疎開をすすめられても、決して沖縄を離れようとしなかった人たちの存在と、彼女が重なり、胸が痛くなりました。しわぶかい顔、小さな体。でも瞳は、故郷へのあふれんばかりの愛情で輝いています。

 私はこのおばあさんのために、住み慣れた大地を追われるかもしれない人々のために、何か自分にできることをしたい。そう願わずにはいられませんでした。このために、3ヵ月のお休みをください。

 今、レバノンでもイスラエル軍の破壊行為が進んでいることをご存知ですか?

 不快に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在進行形で起きていることなので、直視したい方は読んでみてください。

 イスラエル軍はレバノンで、村ごと爆破したり、インフラや民間施設、学校や病院を爆撃し、民間人を殺害し、救助にかけつけた若い救急隊員を殺戮しています。攻撃初日、イランの女子小学校への攻撃もダブルタップでした。これは第一撃の後、被害者を救うために集まった救急隊員や医師、家族らを標的に、さらに第二撃を行う「ダブルタップ」、イスラエル軍が中東各地でよく行う手法です。軍事的戦略というよりは、明らかに地域社会そのものの破壊、若者や子どもを中心に人口の減少を狙う虐殺(ジェノサイド)です。

 SNSでは、今日この若者が爆撃で命を落としました、彼の魂のために祈ってください。そんなメッセージと共に亡くなった若者の写真が次々に流れてきますが、若い救急隊員が非常に多いことに、私は衝撃をうけました。私の息子も同じ年ごろの救急隊員です。

 ニューヨークタイムズの報道によると昨年3月、ガザで救急隊員ら15人がイスラエル軍に殺害され、埋められる事件が起きました。亡くなった隊員の携帯電話には、至近距離で15人が銃殺されてゆく生々しい銃弾の音や、死にゆく隊員の最後の祈りの肉声が録音されており、イスラエル軍の無情なジェノサイドは世界的な批判を浴びました。それでもイスラエル軍は、その手法を続けているのです。

 中東の戦火は、イラン、レバノン、シリアだけでなく、ヨルダン川西岸地区やパレスチナにも広がっています。支離滅裂で派手なトランプ劇場に世界中の目が釘づけになる中、その舞台裏で、イスラエル軍は中東の広域的破壊と殺戮を、粛々と進めているのです。

 この異常事態に対し、いま、世界中が抗議の声をあげています。トランプ大統領を最も激しく非難しているのは、米国の国民自身です。トランプ派の政権幹部が抗議の辞職をし、左派や右派など政治的立場を超えた次元で政権批判が広がり、まるで内戦前夜の様相となってきました。報道されませんが、イスラエルでも政権批判のデモが高まっています。スペイン、イタリアをはじめ欧州でもイスラエルや米国への非難が高まる中、いまだ明確に批難していないのは、日本政府ぐらいではないでしょうか。

 私はヨガと共に生きる中で、二極に対立しやすい政治という世界から距離を置き、過剰な情報に流されず、目の前の生活を大切に暮らしてきました。しかし今、レバノンのおばあさんの存在が、私の目を覚まさせました。無関心や沈黙は、新たな被害者を生みます。パレスチナへの沈黙がイラン攻撃につながり、レバノンや中東各地に広がり、イスラエルは「次はトルコだ」と公言しています。いつかは私たちの国、私たち自身にふりかかってくるかもしれません。

 今、世界中が、私たち一人ひとりが問われています。沈黙と無関心をとおすのは、イスラエルの行為に加担することになってしまいます。

 イスラエルの破壊のエネルギーを止められるのは、イスラエル人自身と、世界中の団結しかありません。

 一方、トランプ政権もまた、他国の主権を侵害する侵略行為をエスカレートさせています。ベネズエラ、グリーンランド。そしてキューバで今起きていることも、米国がエネルギー供給を止めたことによる間接的殺戮(医療的ケアが必要な患者らの死亡)です。さまざまな国が救援物資を送るなど行動していますが、悲しいことに、日本の主要メディアや政府はほとんど沈黙です。

 大国の言いなりになる傀儡政権の樹立、主体的な意見をもつ指導者の抹殺と政権の転覆。このような主権の侵害を、過去のアメリカは人目に触れないように情報機関が工作活動で行ってきましたが、今は隠そうともしなくなりました。

 

 イランのことは、イラン人が決める

 ベネズエラのことは、ベネズエラ人が決める

 キューバのことは、キューバ人が決める

 日本のことは、日本人が決める

 そして、私の意見は、私が決める。

 

 この当たり前のことを、守っていきたいですね。

私の場合はレバノンのおばあさんの存在がきっかけでしたが、あなたはどんなふうに感じますか?

 世界で起きていることに、あなたの心がどう反応するか、静かにながめてみてください。

 

 最後に大切なことをひとつ。

 世界が直面する未曽有の危機を、最近、すべてイスラエルやユダヤ人だけのせいにするような風潮が、急速に世界中に広がってきました。その危険をのべて終わりたいと思います。

 「夜と霧」という本をご存知ですか?

 第二次世界大戦中、精神科医で心理学者でもあるユダヤ人、ヴィクトール・フランクルがナチスの強制収容所で過ごした個人的体験を、心理学的な分析を交えて記録した名著です。私は高校生のときに「夜と霧」を読みました。収容所での飢餓、暴力、強制労働、人間らしい生活を奪われた極限状態が、精神科医らしい冷静さで観察・分析されていますが、一番印象に残っているのは、本書の最後の部分。

 死と隣り合わせの収容所から脱出し、徒歩で逃げてゆく道中、フランクルは同行者が他人の畑を踏み荒らしていることを見とがめ、注意しました。同行者は逆上し、自分たちがされたことに比べ、これくらいはささいなことだ、やっていいんだ、というような主張をしますが、フランクルはそれに反論します。彼の言葉から紡ぎ出されるもの、それは極限の状態に置かれてもなお見失わない人間性、共感性、道徳心。私はそこに、人間性への希望を見出す思いがしました。

 収容所では、管理側の職員の大半が、残酷さや攻撃性をさらけだす一方で、人間性を忘れなかった人もいたそうです。収容された人の中には耐えられずに感情を消滅させてしまう人もいましたが、他人を思いやる感性を最後まで保つ人もいました。

 フランクルはなぜ、心の傷を抱えながら、思い出したくない悲惨な体験をあえて詳細につづったのでしょうか。それは、極限にあっても自分を見失わず、人間性を保つ人たちがいたことの証言者となることで、未来の人類に希望を託したのではないでしょうか。

 暴力より道徳心を、無関心より共感性を、利己心より他人を思いやる利他心を、弱さより強さを。

 フランクルは、精神医学の創始者として有名なジークムント・フロイトから、ウィーン大学医学部で精神医学を学びました。同じくユダヤ人であったフロイトもまた、戦乱の中でウィーンを離れざるを得ず、最後はイギリスで不遇の生涯を閉じました。
 苦難の歴史と、苦難をのりこえて人間性への希望をつなぐ強靭な精神性。これが私の心に刻まれたユダヤ人へのイメージとなって、今もなお生き続けています。

 

 ネタニヤフ首相・イスラエル政府・イスラエル軍の行為と、ユダヤ人の存在とを、分けて考える必要があります。ユダヤ人は世界中に住んでおり、その中には現在のイスラエル政権に批判的な人々が少なくありません。私たち日本人が、必ずしも、政府や閣僚を全面的に支持していないように。イスラエルにもかつて、ラビン首相という民主的な指導者がいましたが、暗殺されてしまいました。多くのユダヤ人がラビンの死を嘆き悲しみました。

 敬虔なユダヤ教徒とは、非暴力の精神を尊重する調和的な人々です。イランとの交戦状態にあるイスラエル人もまた、戦争を推し進める政府に苦しめられている被害者と言えます。反ユダヤ主義にのみこまれると、他者に責任を転嫁するだけの思考停止に陥り、それが新たな攻撃性を生む悪循環へ向かいますので、注意が必要です。このため、私はあえて「シオニスト」という言葉は使いません。

 

 私はむしろ、今回の戦争が、国という枠組みを超えた次元で、人と人との精神的連帯の輪が驚異的に広がっているという特徴に、興味を抱きます。

 

 金と武力で他者を侵略・支配してもいい、自国や自分の生活の安楽さえ維持できれば他者はどうなってもいい、という利己的な人々。

 

 どんな国であっても、その国の人々の主権と文化と伝統を尊重し、理解と助け合いの精神で協調したいと願う人々。

 

 利己心と協調性のせめぎあい。爬虫類的な本能に根ざす利己心と、オキシトシンというホルモンを獲得したホモ・サピエンスがもつ慈愛と協調性。この両者のせめぎあいが、国や人種を超えてこんなにも地球規模で広がったこと、かつてあったでしょうか?

 ガソリンの値段ばかり気にしていると、地球規模で展開する新しい精神性の潮流を見落としてしまいますね。

 心の眼を大きく開いて、あなたらしく世界をながめてみてください。

​ 地球上のすべての生命の幸せと平安を祈りつつ。

​                       2026年3月25日    おかもとまきこ

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